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分数量子ホール準粒子のエニオン統計
量子ホール効果とは、2 次元電子系のホール伝導度が垂直磁場中でe2/hを単位とする整数値(整数量子ホール効果)、または特定の分数値(分数量子ホール効果)に量子化する現象です。 分数量子ホール系は典型的な量子多体系で、その最小の励起(素励起)は分数電荷とエニオン統計を持つ準粒子の生成・消滅です。 最近、分数量子ホール準粒子のエニオン統計が実験で確かめられました※1。 これが契機となり、個々のエニオンに対する制御が可能なプラットフォームとして、分数量子ホール効果の重要性が再認識されています。
橋坂研究室は、分数量子ホール準粒子の分数電荷、またはエニオン統計に起因する非自明な現象の観測・制御を研究しています。 準粒子の運動を自由自在に制御する手法を確立し、この分野の重要なマイルストーンであるエニオンの組み紐操作の実現、トポロジカル量子ビットの実証を目指します。
※1 Bartolomei et al., Science 368, 173 (2020); Nakamura et al., Nat. Phys. 16, 931 (2020).
Topics
分数電荷準粒子のアンドレーエフ型反射を観測
Hashisaka et al., Nat. Commun. 12, 2794 (2021). Journal website
世界初、分数電荷準粒子のアンドレーエフ型反射の観測に成功 プレスリリース(NTT)
解説
半導体を用いて分数量子ホール準粒子のアンドレーエフ型反射を観測することに成功しました。 これは分数電荷準粒子が通常の電子系との界面に入射する際、電子が透過し、分数電荷を持つ正孔が反射される現象です。 これまでアンドレーエフ型反射は超伝導体に特有の現象と考えられてきました。 超伝導体以外の物質におけるアンドレーエフ型反射の可能性は1990年代に理論的に指摘されていましたが、理想的な界面を作ることが難しく、実験では観測されていませんでした。 この実験により、半導体において、かつ分数電荷でもアンドレーエフ型反射が起こることが明らかになり、現象の普遍性が示されました。 本成果は分数量子ホール状態と通常伝導体の界面における電荷移動メカニズムを観測した結果で、準粒子を操作する量子情報デバイスの実現に向けて重要な知見を与えます。
局所量子ホール系における分数電荷生成
Hashisaka et al., Phys. Rev. Lett. 114, 056802 (2015). Journal website
解説
整数量子ホール系中の局所領域に分数量子ホール状態を形成し、これを障壁とする微小接合系を作製しました。 この分数領域を透過する電流が分数電荷準粒子のトンネル効果によって運ばれることを、電流ゆらぎ測定によって確認しました。 従来の分数電荷検出実験は、主に試料全体が分数量子ホール状態にある大面積試料を用いて行われてきました。 このような試料では不純物等による不均一性によって分数量子ホール系のエネルギーギャップが抑制され、分数電荷の検出は100 mK程度の極低温でのみ可能でした。 私たちの実験では、ポテンシャルゆらぎと同程度以下のサイズの局所分数量子ホール系を対象とすることで、2 K以上の温度で分数電荷を観測することに成功しました。
量子ホールエッジ状態のダイナミクス
1 次元電子系では電子相関によってフェルミ液体論の準粒子描像が破綻し、素励起のダイナミクスは電子の集団運動(密度波)として記述されます。 代表的な現象として、電子の直感的イメージに反する「スピン電荷分離」が知られています。 単一電子描像では電荷とスピンは電子の運動によって同時に運ばれますが、1次元系では互いに独立な電荷およびスピン密度波として伝播します。
量子ホールエッジ状態は一方向性の伝播特性を持つ1次元電子系であり、カイラル朝永ラッティンジャー液体と呼ばれます。 複数のエッジ状態が並走または逆走するとき、エッジ状態間のクーロン相互作用やトンネル結合を反映した1次元素励起(固有モード)が現れ、スピン電荷分離のような非自明な現象が生じます※2。 橋坂研究室では、エッジ状態のダイナミクス観測を通じて分数量子ホール系内部の電子状態を評価する実験に取り組んでいます。
※2 Hashisaka and Fujisawa, Reviews in Physics 3, 32 (2018).
Topics
分数量子ホールエッジ状態の強結合相における電荷中性流を実証
Hashisaka et al., Phys. Rev. X 13, 031024-1-15 (2023). Journal website
分数量子ホールエッジ状態の強結合相における電荷中性流を実証 物性研ニュース
解説
量子ホール系試料端に複数のエッジチャネルが生じる場合、チャネル間のクーロン相互作用と電荷散乱により、その輸送特性が変化します。 占有率2/3分数量子ホール系は、この変化を示す典型例として盛んに研究されています。 2/3分数量子ホール系では、対向するv = 1/3 分数エッジチャネルとv = 1 整数エッジチャネルが生じ、これらが極めて強く結合した強結合相、または弱結合相のいずれかの電子状態を取ります。 これらの相は異なる固有励起モードを持ち、理論的には明確に区別されます。 特に強結合相ではカイラルエッジ電流と逆走する電荷中性流が予想されており、分数量子ホール系の輸送特性に対する標準的な理論モデルとなっています。 しかし実験で強結合相を同定するには、ごく短い対向チャネルのコヒーレント輸送を測定する必要があり、困難な課題でした。 本研究では、2/3分数エッジ状態と電子正孔対称な整数-分数量子ホール接合を利用し、1/3-1対向チャネルを作製しました。 ゲート電圧によって対向チャネルの長さを連続的に変化させ、短チャネル領域のコヒーレント伝導から長チャネル領域のインコヒーレント伝導に至るまで、電荷輸送と熱輸送の変化を調べました。 その結果、強結合相の証拠である、中間的なチャネル長領域における電気伝導度の振動と熱伝導度の量子化を観測し、強結合相における電荷中性流の存在を実証しました。 これはトポロジカル量子多体系のエッジ輸送メカニズムを実証した成果で、様々なトポロジカル系の量子輸送現象を紐解くための基礎的な知見を与えます。
スピン電荷分離の時間領域測定
Hashisaka et al., Nat. Phys. 13, 559 (2017). Journal website
電荷信号とスピン信号の波形計測を実現 プレスリリース(東工大)
解説
スピンフィルタと時間分解電荷計を組み合わせてスピン分解オシロスコープを作製し、ポンププローブ測定によって時間領域でスピン電荷分離の観測に成功しました。 実験では、電荷信号とスピン信号が異なる速度で伝播する様子を2つの波束状の信号を異なる時刻に検出することで明らかにしました。 スピン電荷分離は1次元電子系の物理を象徴する現象で、その観測は重要な学術的成果といえます。 加えてこの実験で確立したスピン分解測定手法は、高速の電荷信号とスピン信号、双方の取り扱いが可能な新素子創出に役立つ可能性があります。
独自計測技術による新奇現象解明と新機能創出
既存のエレクトロニクスは単一粒子描像によって電子輸送現象を捉え、固体素子中の電荷を電気的に制御することで成立しています。 近年、電子を単なる電荷キャリアとみなす発想から脱却し、スピンや電子相関など電子本来の様々な性質を技術応用しようという新材料・新機能研究が活発です(スピントロニクス、プラズモニクスなど)。 このような研究では、従来型の電気伝導度測定とは異なる新しい計測技術が大きな役割を果たします。 私たちは量子輸送測定技術・制御技術を自ら開発し、これによってオリジナリティの高い実験研究を展開すること狙っています。 これらの技術は上述の量子ホール系の実験を念頭に設計しますが、その用途は量子ホール系に限定されるものではありません。 共同研究などを通じて、幅広く物性研究に資する成果を創出していきます。
Topics
自作FETを用いた超低雑音低温電流アンプの開発
Bohuslavskyi et al., Appl. Phys. Lett. 121, 184003 (2022). Journal website
Shimizu et al., Rev. Sci. Instrum. 92, 124712 (2021). Journal website
Lee et al., Rev. Sci. Instrum. 92, 023910 (2021). Journal website
解説
GaAsヘテロ構造中の2次元電子系を用いて自作のFETを作製し、これを用いた低温(温度4 K)電流アンプを開発しました。 電流アンプの性能は主に周波数帯域と雑音特性で評価されますが、私たちのアンプはこれらの特性が極めて優れており、室温動作を前提とする市販のアンプを大きく凌駕しています。 このアンプは半導体試料の電流ゆらぎ測定系や、半導体量子ドットの電荷状態読み出し回路の要として利用することができます。