本領域の背景と目的
3次元空間の粒子は、必ずボーズ粒子、またはフェルミ粒子のいずれかに分類されます。
一方、半導体界面などで生じる2次元電子系では、この常識を覆す準粒子(エニオン)が存在する場合があります。
エニオンの特徴は、2粒子の位置を交換した状態が、元の状態と量子力学的に区別されることです。
エニオンを量子力学的な紐と見立てると、位置交換は2本の紐を絡み合わせる操作に相当し、組み紐操作(ブレーディング)と呼ばれます。
紐が絡んだ状態と絡んでいない状態を情報処理における「1」状態、「0」状態とみなすことで、ブレーディングに基づく量子計算(トポロジカル量子計算)が可能と考えられています。
絡み合い状態は紐をほどく操作を行わない限り情報を失わないため、トポロジカル量子計算はエラーに対し耐性を持ちます。
物性物理学分野では、様々な物質においてエニオンを探索する研究が活発に行われてきました。
ところが従来の研究はエニオンを観測するにとどまっており、動的なエニオン制御によってブレーディングを実行するための現実的なビジョンは存在しません。
本領域では、エニオンを発現する代表的な試料である分数量子ホール系を用い、エニオンの動的制御技術を開拓します。
この研究を通して、トポロジカル量子現象を利用した次世代の情報技術研究分野の創出を目指します。