ISSPワークショップ

第3回ナノスケール物性科学の最先端と新展開

終了しました。ご参加いただいた皆様、どうもありがとうございました。


開催趣旨


2020年7月、2021年6月に開催された同名のワークショップに続き、このたび第3回のナノスケールワークショップを開催いたします。 ミクロな物性の観測と制御を目指す実験に携わる若手研究者をお招きし、量子情報、トポロジカル物性、スピントロニクスなど、様々な分野の最新のトピックについてご紹介いただきます。 今回は10名の新進気鋭の研究者の皆さまにご講演をお願いいたしました。


プログラム(敬称略)


ご講演は発表20分+討論5分を予定しています。
アブストラクトは講演者名をクリックしてください。

2023年10月6日(金)

13:00-13:05  廣井 善二(東大物性研、所長) 「開会挨拶」
13:05-13:30  玉手 修平 (理研RQC) 「超伝導量子ビットの集積化と高速状態読み出し」

超伝導回路を用いた量子ビットは優れた集積性をもち、誤り訂正可能な量子コンピュータの実現を目指した研究が盛んに行われている[1, 2]。 超伝導量子ビットデバイスの更なる集積化・大規模化のためには、 チップ上の量子ビット回路のみならず、パッケージングや配線も含めた全体としてスケーラブルなデバイス構造が必要不可欠である。 本講演では、我々の開発しているコンタクトプローブを用いた量子ビットチップへの3次元配線手法と、繰り返し可能な単位構造をもった64量子ビット集積化チップについて紹介する。 また、量子ビットの高速度読み出しとコヒーレンス時間の両立を可能にするPurcellフィルタ[3]の集積化チップ上へ実装を紹介し、状態読み出しの性能について議論する。

[1] S. Krinner et al., Nature 605, 669 (2022).
[2] Google Quantum AI, Nature 614, 676 (2023).
[3] Y. Sunada et al., Phys. Rev. Applied 17, 044016 (2022).

13:30-13:55  米田 淳(東工大WISE-SSS) 「シリコン電子スピン量子ビットのデコヒーレンス特性」

優れたコヒーレンス特性を示すシリコン量子ドット中の電子スピンは、高忠実度な状態操作の実現など量子ビット応用の研究が進展している。 シリコン電子スピン量子ビットの主なデコヒーレンス源には、核スピンとの超微細相互作用や、スピン軌道相互作用などを介して影響を及ぼす電荷雑音が挙げられる。 その区別や特性理解のために、これまでは主に、スピン歳差周波数のゆらぎが示す自己相関スペクトルが利用されてきた。 本講演では、シリコン電子スピン対に対して、歳差周波数のゆらぎのスピン間での相関や、スピン交換相互作用のゆらぎとの相関といった、交差相関を用いてデコヒーレンスの評価を行った研究を紹介する。 交差相関スペクトルを求めることで、量子もつれ状態に依存したデコヒーレンス、量子誤り訂正に影響を及ぼすデコヒーレンスの量子ビット間相関が観測されたのに加えて、スペクトル形状をアプリオリに仮定しないで主要なデコヒーレンス源を特定することに成功した。

[1] J. Yoneda et al., Noise-correlation spectrum for a pair of spin qubits in silicon, arXiv 2208.14150 (2022).

13:55-14:20  長田 有登(東大先進) 「光回路とイオントラップで拓く量子ネットワーク」

個別の量子系を高精度に制御する量子技術は、計算・通信・センシング等のタスクにおいて革新をもたらすと期待されている。 真空中に浮揚された原子イオンを用いるイオントラップ量子技術はその物理実装の中でも高精度な制御と量子ビットの均質性に利点を持つ。 量子ビット数の拡張のためには量子光接続によるネットワーク化が必須であり、必然的に量子ネットワークの構築を行うことになる。 イオントラップ量子技術においては原子イオンの光遷移を利用できる反面、光子への量子変換の技術的課題や光学系自体の巨大さによって拡張性が制限されている状況である。 本講演ではこういった状況を概観したのち、上記の課題を解決すべく進めているイオントラップ量子技術とフォトニクスとの融合研究、および量子ネットワーク実証実験についての進捗を述べる。


14:20-14:40  休憩、写真撮影

14:40-15:05  町田 理(理研CEMS) 「鉄系超伝導体の渦糸芯におけるマヨラナゼロモードの検証」

トポロジカル超伝導体のエッジや渦糸芯では、バルク―エッジ対応の帰結としてトポロジカルに保護されたマヨラナ準粒子が現れる。 このマヨラナ準粒子が準粒子励起スペクトルにおけるゼロエネルギー励起(マヨラナゼロモード)として現れることから、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いたトンネル分光実験が行われてきた。 特に、トポロジカル表面状態を有する鉄系超伝導体の渦糸芯では、マヨラナゼロモードと矛盾しないゼロエネルギー励起が観察されている[1]。 しかしながらゼロエネルギー励起は、マヨラナ準粒子の存在証明における必要条件に過ぎず、これ以外のマヨラナ準粒子の特徴を捉えることが求められている。 本講演では、これまでに観察されてきたゼロエネルギー励起がマヨラナゼロモードであるかの検証を目的としたSTM実験の結果を紹介する。

[1] T. Machida, et al., Nat. Mater. 18, 811 (2019)

15:05-15:30  中野 匡規(東大院工QPEC・物工/理研CEMS)
          「層状磁性半金属テルル化クロムのMBE成長と新奇磁性」

層状カルコゲナイドは半世紀以上も前から精力的に研究されている物質群であるが、近年の二次元物質研究の発展に伴って、その特異な物性に再度注目が集まっている。 本講演では層状テルル化クロムに焦点を当て、その特異な磁性について紹介する。 これは層状ファンデルワールス物質の一種であるCrTe2の層間にCrが規則正しくセルフインターカレーションされた物質系であり、層間Crの量に応じて多彩な磁性を示すことが古くから知られている。 一方、我々のグループでは分子線エピタキシー(MBE)法による層状テルル化クロム薄膜のエピタキシャル成長に取り組み、その磁性が系のキャリア数に依存して大きく変化することを明らかにしてきた[1, 2]。 当日はその詳細を紹介すると共に、それらの研究を通して明らかになって来た磁性半金属特有の強磁性発現機構について議論したい。

[1] Y. Wang, et. al., Nano Letters 22, 9964 (2022).
[2] H. Matsuoka, et. al., arXiv:2304.11890.

15:30-15:55  近藤 浩太(理研CEMS) 「有機分子材料が切り拓くスピントロニクス研究」

近年、物質の表面や磁性など、物質の空間・時間反転対称性の破れを活用することで、これまで困難であったスピントロニクス機能を制御可能であることが示されている[1-3]。 現在、これらの知見と研究技術を駆使することで、有機分子材料におけるスピントロニクス機能の開拓に関する研究に取り組んでいる。 有機分子材料は軽くて柔軟、かつ設計自由度が高いなど、無機固体材料にはない特長を有する。 一方、電気が流れにくいことが、分子の特長を活かした電子・スピンデバイスの研究開発を困難にしている。 そこで、分子に直接電気を流さずとも発現する分子由来のスピントロニクス機能性の開拓を目指している。 本講演では、これまでに行った分子が持つ電気分極を活用した界面スピン変換現象[4]や、らせん分子の”キラリティ”に依存した新奇磁気抵抗効果の発現[5]について紹介する。 さらに、これまで無機固体材料で用いられてきた微細加工技術を用いることで、分子由来の機能性発現の機構解明に向けた取り組みについても紹介したい。

[1] M. Kimata, H. Chen, K. Kondou, at al., Nature 565, 627(2019).
[2] K. Kondou et al., Nature comm. 12, 6491 (2021).
[3] K. Kondou and Y. Otani Frontiers in Physics 11, 196 (2023).
[4] H. Isshiki, K. Kondou* et al, Nano Letters 19, 7119 (2019).
[5] K. Kondou et al., J. Am. Chem. Soc. 144, 7302 (2022).

15:55-16:20  吉岡 克将(NTT物性研)
          「テラヘルツエレクトロニクスを用いたグラフェンにおける超高速電荷ダイナミクスのオンチップ計測」

フェムト秒光パルスを利用したレーザー分光は、固体の超高速電荷ダイナミクスを観測・制御することのできる強力な手法である。 我々は、そのような超高速応答をエレクトロニクスとして扱うためにはどうすれば良いのか、それによってこれまでアクセスできなかったナノ物性を開拓できないか、ということを研究課題としている。 本講演では、オンチップテラヘルツ分光[1]や酸化亜鉛ゲート構造[2]を応用することで、テラヘルツ領域のエレクトロニクスを開拓した最近の成果について紹介する。 具体的には、220 GHzの動作速度に達するグラフェン光検出器の実現による超高速光電変換[3]、グラフェンにおけるピコ秒電子波束のオンチップ計測によるプラズモン伝搬[4]について議論を行う。

[1] K. Yoshioka et al., Appl. Phys. Lett. 117, 161103 (2020).
[2] N. H. Tu, K. Yoshioka et al., Commun. Mater. 1, 7 (2020).
[3] K. Yoshioka et al., Nat. Photon. 16, 718–723 (2022).
[4] K. Yoshioka et al., in preparation.


16:20-16:40  休憩

16:40-17:05  横内 智行(東大総合文化) 「磁気スキルミオンのダイナミクスを用いた人工知能素子」

近年、脳の情報処理方法を参考にした機械学習である人工知能が急速に発展し、その結果、社会や産業で革新的な技術やサービスが登場している。 そこで、より高性能・省エネルギーな人工知能の実現を目指し、素子レベルで脳のふるまいを参考にする「脳型素子」の研究が重要になっている。 そして、メモリスタやスピントロニクス素子など様々な物理系を用いた脳型計算が報告されている。 本講演では、スキルミオンと呼ばれるトポロジカルな磁気構造における磁場誘起のスピンダイナミクスにより、脳型計算の一種である「物理リザバー計算」を実行した結果を報告する。 我々は、いくつかのベンチマークテストをおこなうことで、スキルミオン形成がリザバー素子の性能向上に重要である可能性を明らかにした。さらに、発表では、スキルミオンが性能を向上させる理由についても考察する。

T. Yokouchi, et al., Science Advances 8, abq5652 (2022)

17:05-17:30  黒子 めぐみ(NTT物性研) 「微細加工構造を用いた高周波弾性波のオンチップ操作」

微細加工技術を用いて共振器、導波路、フォノニック結晶などの構造を作製することで、MHz~GHzに至るまでの高周波弾性波の制御が可能となる。 本講演では、初めに一次元フォノニック結晶導波路を用いたオンチップでの弾性波制御を紹介する。 弾性波を中空の薄膜構造に閉じ込めることで、分散効果による弾性波の時空間制御や非線形相互作用を実証した[1,2]。 さらに、二次元に拡張したフォノニック結晶によるGHz帯の振動制御についても紹介する。 加えて、窒化物半導体単結晶を使用した30 GHzという高い周波数で動作する振動子の実現や[3]、スピン等を組み合わせたハイブリッド系への拡張についても言及する。

[1] M. Kurosu, D. Hatanaka, K. Onomitsu, and H. Yamaguchi, Nat. Commun., 9, 1331 (2018).
[2] M. Kurosu, D. Hatanaka, and H. Yamaguchi, Phys. Rev. Appl., 13, 014056 (2020).
[3] M. Kurosu, D. Hatanaka, R. Ohta, H. Yamaguchi, Y. Taniyasu, and H. Okamoto, Appl. Phys. Lett. 122, 122201 (2023).

17:30-17:55  太田 泰友(慶応大理工) 「磁性ガーネットを用いたナノフォトニクスの開拓」

イットリウム鉄ガーネット(YIG)系単結晶は、光通信波長帯において高い透明性と大きな磁気光学効果を両立する稀有な物質である。 ただし同材料は、屈折率が低く難加工性であり、フォトニクス応用に適したYIG薄膜も開発されていなかったことから、ナノフォトニクスへの応用は限定的であった。 本講演では、磁気ナノフォトニクスの開拓に向けた我々の研究を紹介する。 磁気メタ表面によるFaraday回転の増大[1]を中心に議論を進め、連続場の束縛(BIC)状態を用いた高Q値光共振器の設計[2]についても紹介するほか、設計したナノフォトニクス構造の作製方法についても議論する。
[1] S. Gao, Y. Ota, F. Tian, T. Liu, and S. Iwamoto, Opt. Express 31, 13672 (2023)
[2] S. Gao, Y. Ota, F. Tian, T. Liu, and S. Iwamoto, Appl. Phys. Express, 16, 072003 (2023)

17:55-18:00  橋坂 昌幸(東大物性研) 「閉会挨拶」



オンライン参加者の皆さまへのお願い


【重要】発表内容の録音・録画・動画撮影は禁止です。また、ZOOMのレコーディング機能は使用できません。
【重要】講演中は、ノイズやハウリング防止のため、ミュートに設定してください。
・ZOOMでの表示名を「氏名(所属)」となるように設定してください。
・質問がある方は「手を挙げる」ボタンを押していただくか、チャットで「氏名(所属)」と質問がある旨をご入力ください。
・プログラムの円滑な進行のため、当日は現地参加の方のご質問を優先させていただきます。
以上、何卒ご了承のほど宜しくお願いいたします。

世話人


井手上 敏也
大谷 義近
長田 俊人
加藤 岳生
橋坂 昌幸(代表)
長谷川 幸雄
松永 隆佑
三輪 真嗣

お問い合わせは橋坂(hashisaka-@-issp.u-tokyo.ac.jp)まで。
@前後のハイフンは削除してください。

過去のワークショップ


第1回ナノスケール物性科学の最先端と新展開 ⇒  第1回ウェブサイト
第2回ナノスケール物性科学の最先端と新展開 ⇒  第2回ウェブサイト